「目がかすんで車の運転が怖い」「大切な趣味の読書ができなくなった」など、白内障による日常生活の不自由さを感じている方は多いでしょう。
手術を検討しても「痛みはどの程度?」「費用負担は大丈夫?」「術後の回復期間は?」という不安が頭をよぎります。
本記事では、白内障手術の手順や実際にかかる費用、そして後悔しないための準備についてまとめました。手術前に知っておくべき眼内レンズの選び方から、保険適用の範囲、回復期間の過ごし方まで、分かりやすく解説します。
白内障手術の費用はいくら?保険適用と自己負担

白内障手術の費用は、使用する眼内レンズの種類と保険適用の有無によって大きく変わります。
眼内レンズの種類 | レンズ代 | 手術費用 |
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単焦点眼内レンズ | 保険適用 | 保険適用 |
多焦点眼内レンズ (国内で承認を受けているレンズ) | 部分的に保険適用 単焦点眼内レンズとの差額を自己負担 | 保険適用 |
多焦点眼内レンズ (国内未承認のレンズ) | 自由診療のため全額自己負担 | 全額自己負担 |
日本の健康保険制度では、標準的な単焦点眼内レンズを使用した白内障手術は保険適用となり、自己負担額は年齢や所得に応じて1割から3割に抑えられます。
一方、多焦点眼内レンズを選択すると、基本的には保険適用外となりますが、2020年4月からは「選定療養」という制度が始まり、国内で認可されている多焦点眼内レンズについては手術費用は保険適用、レンズ代のみ自己負担となるようになりました。
保険適用での標準的な費用内訳
保険適用となる標準的な白内障手術(単焦点眼内レンズ使用)の費用相場は、患者さんの年齢と所得に応じた自己負担割合によって決まります。
3割負担 | 片眼 4万〜6万 |
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2割負担 | 片眼 3万〜4万 |
1割負担 | 片眼 1万5千円〜2万 |
医療機関によって若干の差がありますが、保険診療の範囲内であれば大きな差はありません。
近年では、特定の2焦点眼内レンズについても保険適用となるものが登場し、単焦点レンズと同様の費用で、より広い範囲の視力回復が期待できるようになりました。これにより、自己負担を抑えつつも、より良い視機能の回復を目指せる選択肢が増えています。
また、高額療養費制度を利用することで、医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、超過分が払い戻されます。
例えば、70歳以上で一般所得区分の1割負担の方の場合、月額の上限は1万8千円程度となり、これを超える医療費は後から払い戻されます。同じ月に両目の手術を受けることで高額療養費制度の上限がまとめて適用され、総額の負担を抑えられる可能性があります。
多焦点眼内レンズなど自費診療の選択肢と費用
多焦点眼内レンズを使用した白内障手術には、「選定療養」と「自由診療」の2つの選択肢があります。
2020年4月から始まった「選定療養」制度では、厚生労働省が認可した国内承認の多焦点眼内レンズを使用する場合、手術費用は保険適用となり、単焦点レンズとの差額分のレンズ代のみを自己負担する形です。
選定療養対象の多焦点眼内レンズの費用はレンズの種類により異なり、一般的に片眼あたり20万円から30万円程度が多く、これに保険適用される手術費用(自己負担分)が加わります。
一方、国内未承認の海外製多焦点眼内レンズを使用する場合は「自由診療」となり、手術費用もレンズ代も全額自己負担です。自由診療の場合、片眼あたり60万円から80万円程度かかるケースが多く、高性能なレンズほど高額になる傾向があります。
費用面では高額になりますが、医療費控除を利用することで一部税金の還付を受けられる場合も。また、民間の医療保険に加入している方は、手術給付金を受け取れる可能性もあるため、事前に保険会社に確認しておくとよいでしょう。
白内障手術は日帰りも可能?当日の流れや手順
白内障手術は、濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを挿入する手術です。近年の技術進歩により、小さな切開創から行う低侵襲な手術が主流となり、多くの場合10〜20分程度の短時間で終了します。
手術は通常、点眼麻酔のみで行われるため、ほとんど痛みを感じることなく、日帰りで受けることが可能です。
手術前の検査と当日までに行う準備
手術前には詳細な検査を行い、患者さんの目の状態を把握します。
水晶体の濁りの程度を確認し、他の眼疾患の有無を調べます。視力検査や細隙灯顕微鏡検査、眼底検査などの基本的な検査に加え、眼内レンズの選択のために必要な特殊な検査も行います。
特に重要な検査として、眼軸長検査があります。これは目の奥行きを測定する検査で、挿入する眼内レンズの度数を決定する際に必要不可欠です。
また、角膜内皮細胞の数を測定する検査なども行われます。角膜内皮細胞は増殖しない細胞であり、白内障手術でも一定数減少するため、術前の状態を把握しておくことが重要です。
手術前には、眼内レンズの種類や度数についても医師と相談します。単焦点レンズか多焦点レンズか、またどの距離にピントを合わせるかなど、患者さんの生活スタイルに合わせた選択が必要になります。これは術後の生活の質に大きく影響するため、十分な説明を受け、慎重に決める必要があります。
また、手術に支障をきたさないよう、女性は化粧を控え、男性は髭を剃っておくことが勧められています。ネイルやマニキュアは手術中の血中酸素濃度の測定の妨げになるため、事前に落としておきましょう。
実際の手術手順と所要時間
白内障の手術時間は、通常10~20分程度です。当日の手術手順の流れは以下の通りです。
- 点眼麻酔をかける
- 角膜に2~3mmの小さな切開創を作る
- 濁った水晶体を超音波で砕いて吸引除去する
- 眼内レンズを挿入して、固定する
手術中、患者さんは医師の指示に従って目を動かすだけで、特別な負担はかかりません。切開部位は角膜という血管のない組織のため、出血することはほとんどありません。
近年では、より精密な手術を可能にするレーザーを用いた白内障手術も普及しつつあり、超音波使用時間を短縮できるため、角膜内皮細胞へのダメージを軽減できるというメリットがあります。
手術が終わったら、眼帯を装着して手術室を出ます。その後短時間の休憩を経て、特に問題がなければ帰宅することができます。翌日の診察で眼帯を外し、視力や眼の状態を確認します。
水晶体の超音波破砕と吸引
白内障手術の中心となる工程が、濁った水晶体の超音波破砕と吸引です。この技術は「超音波水晶体乳化吸引術」と呼ばれ、現代の白内障手術の主流となっています。
角膜に2〜3mmほどの小さな切開を加えた後、まず水晶体の前嚢と呼ばれる膜に小さな穴を開けます。
次に「超音波乳化吸引装置」と呼ばれる特殊な器具を挿入します。この装置の先端からは超音波が出力され、濁った水晶体を細かく砕きながら吸引して除去していきます。
この方法により、大きな切開を必要とせずに水晶体を取り出すことができ、術後の回復も早くなります。
眼内レンズの挿入方法
水晶体を除去した後、その代わりとなる眼内レンズを挿入します。眼内レンズは直径6mmの円形のレンズで、その周囲には固定のためのハプティックと呼ばれる脚が付いています。
眼内レンズは柔らかい素材でできており、挿入時には折りたたまれた状態でカートリッジと呼ばれる細い筒に装填されます。
このカートリッジを切開創に挿入し、眼内レンズを眼内に押し出します。レンズは眼内で自然に広がり、水晶体嚢の中に収まります。ハプティックが水晶体嚢内で広がることで、レンズはしっかりと固定されます。
この一連の動作は非常に繊細で、レンズが正しい位置に収まるよう慎重に行われます。挿入された眼内レンズは基本的には半永久的に使用できるもので、通常はその後交換する必要はありません。
眼内レンズの種類と選び方のポイントを解説

白内障手術では、濁った水晶体を取り除いた後に人工の眼内レンズを挿入しますが、このレンズ選びが術後の見え方や生活の質に大きく影響します。
眼内レンズには主に「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」の2種類があり、それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なります。
単焦点眼内レンズは一つの距離にだけピントが合い、健康保険が適用されます。一方、多焦点眼内レンズは複数の距離にピントが合わせられ、眼鏡への依存度を減らせますが費用は高額になるケースがあります。
自分に合う眼内レンズを選ぶためのポイントを見ていきましょう。
単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの違いとメリット
単焦点眼内レンズは、その名の通り一つの距離(遠方・中間・近方のいずれか)にのみピントが合う眼内レンズです。
ピントが合った距離はとても鮮明に見えるというメリットがあり、コントラスト感度が高く、対象物をくっきりと見ることができます。また健康保険が適用されるため、自己負担額は1割から3割程度で済み、経済的な負担が少ないのも大きな利点です。
一方、多焦点眼内レンズは複数の距離にピントを合わせることができます。2焦点タイプは遠方と近方、または遠方と中間距離の2か所、3焦点タイプは遠方・中間・近方の3か所にピントが合います。さらに最新の5焦点タイプも登場し、より自然な見え方が実現できるようになっています。
多焦点眼内レンズの最大のメリットは、眼鏡への依存度を大幅に減らせることで、約8〜9割の方が眼鏡なしで日常生活を送れるようになるとされています。
ただし、多焦点眼内レンズには「ハロー・グレア現象」と呼ばれる光の周りに輪が見えたり、光がにじんで見えるといったデメリットがあります。特に夜間の運転時に対向車のヘッドライトなどが眩しく感じることがあるため、夜間の運転が多い方には注意が必要です。
また、単焦点レンズに比べてコントラスト感度が若干低下するため、細かいものを見る仕事をする方には向かない場合もあります。
自分に合った眼内レンズの選択ポイント
自分に合った眼内レンズを選ぶには、まず自分の生活スタイルを振り返り、日常生活で最も頻繁に見る距離や、重視したい作業を明確にすることが大切です。
例えば、読書や手芸など近くを見る作業が多い方、運転やスポーツなど遠くを見ることが多い方、パソコン作業など中間距離を見ることが多い方では、適した眼内レンズが異なります。
また、性格や好みも選択の重要な要素となります。完璧な見え方を求める方や、少しのぼやけも気になる繊細な方は、焦点が合った距離では非常に鮮明に見える単焦点レンズが向いています。
一方、多少の見え方の妥協があっても、眼鏡をかけたり外したりする煩わしさから解放されたい方には多焦点レンズがおすすめです。
眼の状態も重要な判断材料です。白内障以外の眼の病気(緑内障など)がある場合や、強い乱視がある場合は多焦点眼内レンズが適さないことがあります。
また多焦点眼内レンズは脳が新しい見え方に順応する必要があり、この「中枢適応」に時間がかかる場合があります。術前には詳細な検査とカウンセリングを通じて、眼科医と十分に相談することが不可欠です。
費用面も検討する必要があります。単焦点眼内レンズは保険適用で済み、多焦点眼内レンズは選定療養か自由診療となり自己負担額が高額になります。
自分のライフスタイルと予算に合わせて、最適なレンズを選びましょう。
白内障とは?主な症状と原因を解説
白内障は、目の中の水晶体が濁ることによって視力が低下する疾患です。
水晶体はカメラのレンズのような役割を担っており、入ってきた光を網膜に集める働きをしています。この水晶体が濁ることで、光がうまく網膜に届かなくなり、見えづらさや眩しさなどの症状が現れます。
白内障は主に加齢によって引き起こされ、60代では約70%、80歳以上ではほぼ100%の方が何らかの白内障の症状を持つと言われています。早い方では40代から発症することもあり、誰にでも起こりうる身近な目の病気です。
白内障の初期段階ではどのような症状が現れるのか、予防する方法はあるのかについて解説します。
白内障の症状とその進行度合い
白内障の初期症状は、非常に気づきにくいものです。多くの場合、視界がわずかにかすんで見えたり、明るい場所で眩しさを感じたりする程度で、日常生活に大きな支障をきたすことはありません。
白内障は片目から発症することもあり、健康な方の目がカバーすることで、さらに自覚しにくくなっています。白内障が進行すると、以下のような症状が現れます。
- 視界のかすみ
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水晶体の濁りにより、物がかすんだようにぼやけて見えます。くもりガラスを通して見ているような状態になります。
- 眩しさの増加
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水晶体が濁ると光が乱反射し、特に夜間の街灯や車のヘッドライトなどの光源に対して強い眩しさを感じるようになります。
- 物が二重・三重に見える
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水晶体の部分的な濁りにより、光が複数に分かれて網膜に届き、物が二重や三重に見える症状が現れることがあります。
- 視力の低下
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白内障が進行すると、水晶体の濁りが強くなり光が十分に網膜に届かなくなるため、視力が著しく低下します。メガネやコンタクトレンズでの矯正が効かなくなってきます。
白内障の進行度合いは個人差が大きく、数年かけてゆっくりと進行することが一般的ですが、糖尿病やステロイド薬が原因の場合は、数ヶ月から1年程度で急速に進行することもあります。
白内障が発症する主な原因と予防法
白内障が発症する主な原因には、以下のようなものがあります。
- 加齢
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最も一般的な原因で、年齢とともに水晶体内のタンパク質が変性し、濁りが生じます。加齢性(老人性)白内障と呼ばれており、自然な老化現象の一部です。
- 紫外線の影響
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長期間にわたる紫外線の暴露は、水晶体のタンパク質を酸化させ、変性を促進。オゾン層の破壊により地球に降り注ぐ紫外線量が増加していることも、白内障のリスク増加につながっていると考えられます。
- 糖尿病
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血糖値が慢性的に高い状態が続くと、水晶体に糖分が蓄積し、白内障の発症リスクが約5倍高まります。特に60歳以下の若年層での発症に影響し、進行が早い傾向も。
- ステロイド薬
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全身疾患の治療に使用される内服薬や、喘息などで使用する吸引薬が白内障の原因になりやすいとされています。ステロイド薬が原因の白内障は、発症すると進行が早いことが特徴です。
白内障を完全に予防することは難しいですが、発症や進行を遅らせるための方法として以下が推奨されています。
- 紫外線対策
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UVカット率の高いサングラスの着用、つばの広い帽子の使用など、目に入る紫外線を減らすことが効果的。特に朝夕の太陽が低い位置にある時間帯は直接光が目に入りやすいため、サングラスでの保護が重要です。
- バランスの良い食事
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抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンE、βカロテンなどを多く含む野菜や果物を摂取することで、水晶体の酸化ストレスを軽減できます。逆に、糖質や乳製品の過剰摂取は避けるべきでしょう。
- 生活習慣病の予防
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糖尿病などの生活習慣病は白内障のリスクを高めるため、適切な食生活と運動習慣を身につけるようにします。定期的な運動により、血糖値の上昇を抑えることが効果的です。
- 禁煙
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喫煙は白内障のリスクを高めることが知られています。禁煙または減煙に取り組むことで、目の病気になりにくい体づくりを目指せます。
これらの予防法を複合的に取り入れることで、白内障の発症時期を遅らせたり、進行速度を緩やかにしたりすることが期待できます。
早期発見・早期治療のために、定期的な眼科検診を受けることも大切です。
白内障手術のタイミングはいつがベスト?
白内障手術のベストなタイミングは、患者さん一人ひとりの生活スタイルや症状の程度によって異なります。一般的に最も重要な判断基準は、日常生活に支障が出始めた時です。
具体的には、視力低下で運転に不安を感じる、読書や趣味の活動がしづらくなった、あるいは光がまぶしく感じるといった症状が生活の質に影響し始めた時が、手術の検討時期と言えるでしょう。
白内障は進行性の疾患であり、薬で治すことはできません。いずれ手術が必要になる場合が多いため、「見えにくくなった時」が一番のタイミングです。
一方で、特に自覚症状がなく生活に不自由がなければ、手術を急ぐ必要はない場合もあります。
手術を検討すべき視力低下の目安
白内障手術を検討すべき視力低下の目安として、いくつかの基準があります。
まず、一般的な目安として視力が0.7を下回り始めたときは、手術を検討する時期と言えます。特に運転免許の更新を控えている方は、両眼視力が0.7以上必要となるため、それを下回る場合は手術を検討できるでしょう。
また、視力低下だけでなく、白内障特有の症状がどの程度日常生活に影響しているかも重要な判断基準です。例えば、光がまぶしく感じる、物が二重・三重に見える、霧がかかったように見えるなどの症状が顕著になり、日常生活に支障をきたし始めたら手術を検討する時期です。
視力低下の程度に加えて、生活環境や趣味、仕事内容なども手術のタイミングを決める重要な要素となります。例えば、細かい作業が必要な仕事をしている方や、読書や裁縫などの趣味を大切にしている方は、より早めに手術を検討した方が生活の質を維持できる場合があります。
手術を急ぐべきケースと様子を見てよいケース
白内障手術を急ぐべきケースとしては、特に緑内障のリスクがある場合が挙げられます。
白内障が進行すると水晶体が肥大化し、目の中の房水の流れを阻害して眼圧が上昇することがあります。これにより閉塞隅角緑内障を引き起こす可能性があり、急性発作が起きた場合は失明する危険性もあります。
また、白内障を放置して水晶体が硬くなると、手術の難易度が上がるというリスクがあります。早い段階で手術を受けることで将来的なリスクを減らせる場合もあるので、医師と相談の上で適切な判断をしましょう。
一方、手術を急がなくてよいケースとしては、初期の白内障で視力低下が軽度であり、日常生活に大きな支障がない場合が挙げられます。
この場合は定期的に眼科で経過観察を受けながら、生活に不便を感じ始めたときに手術を検討するという選択肢もあります。眼鏡やコンタクトレンズで視力が十分に矯正できる場合も、すぐに手術を必要としないことがあります。
ただし、白内障の症状に気づかず放置すると、知らないうちに視力が低下して日常生活に支障をきたしたり、緑内障などの合併症リスクが高まったりする可能性があります。
自己判断で手術の時期を決めるのではなく、定期的に眼科を受診して医師と相談しながら決めることが最も重要です。
白内障手術は痛い?麻酔方法と痛みの程度
白内障手術は局所麻酔によって行われるため、痛みはほとんど感じません。現代の白内障手術は医療技術の向上により、約2.4mmという非常に小さな切開で行うことができます。
ほとんど痛みを感じないケースや、手術が始まったのかどうかわからないまま終わるケースも少なくないようです。手術中に感じるのは主に圧迫感や水が流れる感覚程度で、強い痛みを感じることはありません。
手術中の痛みと麻酔の仕組み
白内障手術で用いられる麻酔には主に3種類あり、その組み合わせによって痛みを効果的に抑えています。
まず基本となるのは点眼麻酔で、麻酔成分を含んだ目薬を数回点眼することで目の表面を麻痺させます。これだけでも痛みをかなり抑えることができますが、目の内部の痛みまでは完全に抑えきれない場合があります。
そこで多くの医療機関では前房麻酔を併用しています。前房麻酔は手術中に眼の中(前房)に直接麻酔薬を注入するもので、これにより眼球内部の痛みも効果的に抑えることができます。
さらに痛みに敏感な方や不安が強い方には、テノン嚢下麻酔という方法も選択できます。これは結膜の一部を切開して眼球周囲に麻酔薬を染み込ませる方法で、眼の周りの神経を麻酔します。この方法では視神経にも麻酔がかかるため、手術中の眩しさも感じなくなるメリットがあります。
もし手術中に痛みを感じた場合は、医師や看護師に伝えれば追加で麻酔を行う方法もあるため、我慢せずに伝えるようにしましょう。
術後に感じる不快感とその対処法
白内障手術後には、痛みというよりも、いくつかの不快感を感じることがあります。
最も一般的なのは「コロコロする」「クシャクシャする」といった異物感です。これは術後に目の状態が安定するまでの一時的な症状で、日数の経過とともに徐々に改善していきます。
また、術後はまぶしさを感じることが多くあります。白内障で濁っていた水晶体が透明な眼内レンズに置き換わることで、目に入る光量が増えるためです。時間とともに脳が慣れてくるので徐々に気にならなくなりますが、まぶしさが強い場合はサングラスの着用が効果的です。
術後に一時的に眼圧が上昇することもあります。特に白内障が高度に進行していた方や、緑内障やぶどう膜炎などの既往がある方は注意が必要です。術後の定期検診でチェックし、必要に応じて追加投薬が行われます。
術後に処方される点眼薬は、抗菌薬や炎症を抑えるステロイド薬など複数種類あるので、医師の指示通りに正確に使用することが重要です。
白内障手術のリスクと合併症について
白内障手術は現代医療において最も一般的な手術の一つで、日帰りでも受けられる体への負担が少ない手術になりました。しかし、どんな手術にもリスクはつきものであり、白内障手術も例外ではありません。
手術後に現れる可能性がある症状と、合併症の予防策についての理解を深めましょう。
まれに起こる合併症と予防策
術後に最も警戒すべき合併症の一つが「細菌性眼内炎」。手術の切開創から細菌が眼内に侵入し、炎症を引き起こすものです。発症頻度は約2,000〜5,000人に1人と非常に低いですが、発症すると重篤な視力障害を引き起こす可能性があります。
細菌性眼内炎は急性と晩発性の2つのタイプがあり、急性眼内炎は術後数日以内に発症し、眼痛や充血、視力低下といった症状が現れます。
一方、晩発性眼内炎は術後数週間から数か月後に発症することがあります。予防のためには、手術前からの抗菌薬点眼や、術後の適切なケアが重要です。
その他、稀に「眼内レンズの亜脱臼」が起こることがあります。これは挿入した眼内レンズを支えるチン小帯という繊維が切れることで、レンズの位置がずれたり外れたりする現象です。この場合、再手術でレンズを固定する必要があります。
また、「嚢胞様黄斑浮腫」という網膜の中心部分が腫れる症状が起こることもあります。特に糖尿病患者さんや、術後の点眼薬を適切に使用しなかった場合に発症リスクが高まります。
また、術後は目を清潔に保ち、無理な運動や飲酒は控えるなど、生活面での注意も必要です。
後発白内障の症状と対処法
後発白内障とは、白内障手術後に発症する症状で、眼内レンズを固定している水晶体嚢(水晶体を包む袋)が濁ってくる現象です。
これは厳密には白内障の再発ではなく、水晶体嚢に残った細胞が増殖して起こる別の現象です。白内障手術を受けた患者さんの約20%が発症するとされています。
後発白内障になると、初期の白内障のような症状が現れます。具体的には、視界がくもったり、かすんで見えたりします。白内障手術直後はよく見えていたのに、徐々に見えづらくなってきた場合は、後発白内障を疑う必要があります。
後発白内障の治療にはヤグレーザーという特殊なレーザーを使用します。濁った水晶体嚢にレーザーを照射して穴を開け、濁りを取り除きます。治療時間は数分程度で、痛みもほとんどなく、治療後すぐに視力が回復するのが特徴です。
レーザー治療後に目の中に破片が散らばり「飛蚊症」の症状が現れる場合がありますが、徐々に改善します。ヤグレーザー治療は非常に効果的で、後発白内障が再発することはほぼありません。
白内障手術後のケアと生活制限
白内障の術後に回復を順調に進め、合併症を防ぐためには適切なケアと生活制限が欠かせません。
手術直後は目の傷が完全に治っていない状態のため、約1週間程度は特に注意が必要です。
- 目をこすったり強く押さえたりしない
- 医師から処方された点眼薬を指示通りに使用する
- 洗顔や洗髪、飲酒を制限する
こうした術後の注意点を守ることで、視力回復をスムーズに進め、合併症のリスクを最小限に抑えることができます。
術後にしてはいけないことと注意点
術後に最も重要なのは、手術した目を清潔に保ち、直接触れたりこすったりしないことです。
術後1週間程度は傷口が完全に閉じておらず、細菌感染のリスクが高い時期です。そのため、目に水が入る可能性のある洗顔や洗髪は1週間程度控えます。この期間は濡れたタオルで目を避けて顔を拭く程度にとどめ、目の周りの清潔を保ちましょう。
入浴については、首から下のシャワーは手術翌日から可能ですが、顔を洗うことや浴槽に浸かることは1週間程度控えた方が安全です。
また、アイメイクも術後1週間は避け、目の周りの化粧については1ヵ月程度控えるよう推奨されています。飲酒については、炎症を悪化させる可能性があるため、術後1週間程度は控えることが望ましいでしょう。
仕事の復帰時期については、デスクワークなど身体に負担がかからない仕事であれば術後翌日から可能です。一方、力仕事や屋外作業、重いものを持つ作業は術後2週間〜1ヶ月程度控えるべきです。これは突然の血圧上昇で眼内出血のリスクがあるためです。
車の運転についても、術後1週間程度は控え、医師の許可を得てから再開することをおすすめします。
術後の定期検診の重要性と頻度
白内障手術後の定期検診は、回復過程を確認し、合併症を早期に発見するために非常に重要です。一般的な検診スケジュールは、術後翌日、1週間後、1ヵ月後という流れで行われます。
術後翌日 | 手術の経過確認 炎症や感染症の有無をチェック |
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術後1週間 | 傷の回復状況を確認 洗顔や洗髪などの生活制限を緩和できるかどうかを判断 |
術後1ヶ月 | 視力が安定しているかを確認 必要に応じて眼鏡の処方を検討 |
特に術後1週間以内は合併症発症リスクが高い時期であるため、この期間の検診は欠かさず受けるようにしましょう。医療機関によっては、術後2〜3日目や2週間後にも追加の検診を設定している場合があります。
術後3ヵ月の検診では、長期的な経過観察と、点眼薬の継続使用の必要性について判断します。多くの場合、この時期には点眼薬が不要になることが多いですが、医師の指示に従うことが重要です。
定期検診の重要性は、細菌性眼内炎などの合併症の早期発見にあります。細菌性眼内炎は頻度は低いものの、早期に発見されなければ失明のリスクもある重篤な合併症です。
白内障手術後の視力回復はいつ?経過と注意点
白内障手術後の視力回復には個人差がありますが、多くの方は術後すぐに視力の改善を実感します。手術によって濁った水晶体が取り除かれ、透明な眼内レンズに置き換わることで、光の透過性が格段に向上するためです。
ただし、完全に視力が安定するまでには時間がかかり、一般的には術後1〜2ヵ月程度が必要とされています。
術後の視力変化の目安とその経過
多くの方は術後翌日から視力の改善を実感し、「とてもよく見える」「すごく見えやすくなった」と喜ぶケースが多いです。
ただし、術後は瞳孔が広がっているため視界に違和感を覚えることがあります。また、自分の目と人工眼内レンズでは焦点の合わせ方が異なるため、脳がこの変化に適応するまでに時間がかかることもあります。
術後1週間程度経つと、角膜のむくみが改善し、術直後の不快感もほとんど解消されてきます。術後2週間〜1ヵ月になると、視力がより安定してきて、眼内レンズにも脳が順応し始めます。
回復期間中に気をつけるべきこと
白内障手術後の回復期間中は、視力が徐々に安定していく過程で、いくつかの症状や変化を経験することがあります。
まず、術後しばらくは「まぶしさ」を強く感じる方が多いです。これは濁った水晶体が透明な眼内レンズに交換されたことで、目に入る光量が増えたためです。通常、このまぶしさは時間の経過とともに脳が適応し、1ヵ月程度で軽減していきます。まぶしさが気になる場合は、サングラスの着用が効果的です。
また、術後は「青っぽく見える」という色覚の変化を感じることもあります。これは白内障で黄色く濁っていた水晶体が取り除かれ、青い光が網膜に届きやすくなったためです。この症状も時間とともに脳が適応し、通常は3ヵ月程度で解消されます。
回復期間中には「飛蚊症」を自覚することもあります。これは白内障の濁りが取れて視界が明るくなったことで、これまで気づいていなかった飛蚊症に気づきやすくなるためです。通常は時間の経過とともに気にならなくなりますが、突然増加したり、閃光を伴う場合は網膜剥離の可能性もあるため、すぐに医師に相談することが重要です。
視力が安定するまでの術後1〜2ヵ月は、眼鏡の作成を急がないことも大切です。この期間は視力に変動があるため、早めに眼鏡を作ると度数が合わなくなることがあります。どうしても必要な場合は「仮の眼鏡」として作り、視力が安定した後に改めて度数を合わせ直すことをお勧めします。
白内障の日帰り手術と入院はどちらを選ぶべき?
白内障手術は体への負担が少ないことから、現在では日帰り手術が主流となっています。手術そのものの内容は日帰りでも入院でも違いはなく、選択は患者さんの状態や希望によります。
大切なのは安全性を最大限に考慮した上で、自分の心身に最も負担がかからない方法を選ぶことです。
日帰り手術のメリットと向いている人
日帰り手術の最大のメリットは「利便性」です。入院費がかからないため「経済性」も優れているといえます。手術当日にそのまま帰宅できるため、日常生活のリズムを大きく崩すことなく手術を受けられます。
入院による長時間の拘束がなく、休日を利用して手術を受けることも可能です。翌日からは身体に負担のかからない事務作業などの仕事であれば復帰できるケースも多いです。
日帰り手術に向いているのは、比較的若く体力に自信があり、他に重篤な病気がない方です。特に、自宅が医療機関の近くにある、通院のための交通手段が確保できる、手術後のケアをサポートしてくれる家族がいるといった条件が整っている場合は、日帰り手術が適しています。
認知症の方は、環境の変化によって症状が悪化する可能性があるため、慣れた自宅で過ごせる日帰り手術の方が心身の負担が少ないケースもあります。
また、仕事が忙しく長期休暇を取ることが難しい方や、ペットを飼っているなど家を長時間留守にできない事情がある方も、日帰り手術を選択することで生活への影響を最小限に抑えることができます。
また、手術後は運転はできないので、必ず付き添いの方に送迎してもらう必要があります。日帰り手術は翌日に検査のための来院が必要なため、通院できる環境であることも重要な条件となります。
入院が必要なケースとその期間
白内障手術では入院が必要となるケースも少なくありません。高齢の方や一人暮らしの方は、術後のケアが十分に行えない可能性があるため、入院が推奨される場合があります。特に付き添いの方がいない場合、手術後に眼帯をした状態で帰宅するのは危険を伴います。
また、白内障以外の目の疾患(緑内障など)を抱えている方や、糖尿病・高血圧など管理が必要な全身疾患がある方は、術後に体調の変化があった場合に迅速に対応できるよう、入院での手術が基本となることがあります。
入院の期間は医療機関によって異なりますが、1泊2日や2泊3日の短期入院が一般的です。
入院での手術のメリットとしては、術後のケアが医療スタッフによって適切に行われることが挙げられます。点眼の方法や頻度をきちんと管理してもらえるため、特に高齢の方は安心感があります。
万が一術後に合併症が起きた場合でも、すぐに対応してもらえる環境にあるという安心感も大きいでしょう。ただし、入院には費用面でのデメリットがあります。入院費用が発生するため、日帰り手術よりも総費用が高くなります。
近年では医療技術の進歩により手術の安全性が高まっていることもあり、必ずしも入院が必要ではないケースも増えています。自分の状況に合わせて、医師と相談しながら最適な選択をするようにしましょう。
白内障手術で後悔しない病院の選び方
白内障手術は安全性の高い手術ですが、病院やクリニックによって技術レベルや設備、患者への対応などに差があります。
後悔しない手術を受けるためには、適切な医療機関選びが重要です。
- 医師の経験や技術
- 術前検査の充実度
- 設備の新しさ
- 眼内レンズの種類
- 術後のケア体制
手術は一生に一度の経験となるため、慎重に医療機関を選ぶことで、満足度の高い結果を得ることができるでしょう。
信頼できる眼科医師の見極め方
信頼できる眼科医師を見極めるためには、まず日本眼科学会認定の「眼科専門医」の資格を持っているかどうかを確認しましょう。
眼科専門医の資格は、一定期間の研修と経験を積んだ上で、専門的な知識と技術が認められた医師に与えられるものです。医師の経歴や実績を調べ、年間どれくらいの白内障手術を執刀しているかなどの情報も参考になります。
さらに、より高いレベルの信頼性を示す指標として、白内障手術だけでなく硝子体手術もできる医師かどうかを確認することも有効です。
万が一白内障手術中に合併症が生じた場合、技術を持つ医師であればその場で適切に対応できます。硝子体手術ができない医師の場合、合併症発生時に大学病院等に紹介しなければならないケースもあります。
信頼できる医師であるかを判断する上で、患者とのコミュニケーション能力も重要です。手術の説明をわかりやすくしてくれるか、患者の質問に対して丁寧に回答してくれるか、術後のフォローアップについて明確に説明してくれるかなど、医師の対応の仕方も見極めのポイントとなります。
特に術前の検査と問診の質が高く、患者のライフスタイルやニーズをしっかり理解した上でレンズ選択などを提案してくれる医師は信頼できると言えるでしょう。
設備や実績で比較すべき病院選びのポイント
白内障手術を行う病院・クリニックを選ぶ際には、医療設備の充実度をチェックするようにできます。最新の医療機器を導入している医療機関では、より精密で安全な手術が期待できます。
例えば、術中診断ツール「ORA(TM) System」など、手術の精度を上げる最新機器を導入しているかどうかは、手術の質に直結します。
ORA(TM) Systemは手術中の目の状態をリアルタイムで測定し、より適切な眼内レンズの度数や挿入位置を決定することができ、手術後の見え方の質が向上します。
また、病院の手術実績も重要な判断材料です。実績が多い医療機関ほど、様々なケースに対応できるノウハウを持っていると考えられます。
眼内レンズの取り扱い種類の豊富さも比較ポイントです。単焦点レンズだけでなく、多焦点レンズや乱視矯正用レンズなど、様々な種類のレンズを取り扱っている医療機関では、患者の目の状態やライフスタイルに応じた最適なレンズを提案してもらえます。
優れた病院では、手術前に患者の生活状況や希望をしっかりとヒアリングし、その人に合った眼内レンズを提案してくれます。これにより、「こんなはずではなかった」という術後の後悔を防ぐことができます。
さらに、術後のケア体制も重要です。術後の定期検診の頻度や内容、万が一の合併症発生時の対応体制などを事前に確認しておくとよいでしょう。
手術自体が成功しても、術後のケアが不十分だと合併症のリスクが高まることがあります。患者からの質問や相談に対応する姿勢なども、良い病院選びのポイントになります。